ぱぱとままになるまえに

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「暮らしかた冒険家」伊藤菜衣子さんに聞く、
結婚・出産・離婚・再婚を通して見えたこと

「暮らしかた冒険家」として活動する伊藤菜衣子さん。
暮らしかた冒険家は「未来の”ふつう”を今つくる」をモットーに、家づくりや食の流通など暮らしにまつわる違和感をアップデートしています。

たとえば、森のなかで1泊2日で開催された結婚式「結婚キャンプ」。最近ではアウトドアウェディングが人気ですが、2010年当時は大きな注目を集めました。

その後の新婚旅行は、3週間かけて西日本を中心にまわり、これからの暮らしかたを探す旅「新婚ノマド旅」へ。3.11の後は熊本県に移住して町家のセルフリノベーションをし、これからの住まいのあり方を模索も。

ほかにも「100万人のキャンドルナイト」をクリエイティブ制作チームとして広めたり、おいしくて体にいい食べ物について考える「ちゃんと、たべものプロジェクト」を発信したり。また、坂本龍一さんに「君たちの暮らしはアートだ」と指名され、札幌に引っ越して暮らす「hey,sapporo」を札幌国際芸術祭2014の作品として出品もしました。

そうした活動を前夫と取り組んできましたが、2018年、二人は離婚を発表。その翌年、菜衣子さんは現在の旦那さんと再婚し、5歳の息子さんと3人で暮らしています。

結婚、妊娠・出産、離婚、再婚。
怒涛の数年間を振り返り、見えてきたことを語っていただきました。

伊藤菜衣子(いとう・さいこ)
1983年北海道生まれ。クリエイティブディレクター。暮らしにまつわる常識をつくりなおし、伝えるため、広告、編集、映画制作などを手がける「暮らしかた冒険家」として活動。高気密・高断熱の住宅の普及にも取り組む。https://www.bouken.life/
伊藤菜衣子(いとう・さいこ)
1983年北海道生まれ。クリエイティブディレクター。暮らしにまつわる常識をつくりなおし、伝えるため、広告、編集、映画制作などを手がける「暮らしかた冒険家」として活動。高気密・高断熱の住宅の普及にも取り組む。
https://www.instagram.com/saikocamera/
▼「人生とは自分にかかっている呪いを ひとつひとつ解いていく冒険」をnoteにて連載中https://note.com/bouken_life/m/m6db7ec33c438

産後に気づいたジェンダーギャップ

ーー暮らしかた冒険家では、結婚や暮らしのあらゆることの当たり前を疑い、新しいことを提案してきたなかで、二人が離婚したというのは本当に衝撃でした。ちょっと聞きにくいんですが…離婚することになった経緯を教えてもらえますか?

前の夫とは2010年に結婚して、2014年に出産しました。
子どもが生まれるまでの4年くらいは夫婦二人で過ごして、一緒に仕事もしてきたので、いろんなことを理解し合っているつもりでした。でも出産を機に、あれ?と思うことが増えたんです。

働くなかでは、「女だから仕方ない」と感じる機会は撮影アシスタント時代にはあったけれど、それ以降はなくて。でも出産後、「これは母親がやること」と役割が固定化されていることがたくさんあって、なんなんだこれは!ってものすごい驚きましたね。

さらに、仕事も夫婦二人でやっていたので、私が止まったら仕事が止まっちゃう状態で、そうすると収入も止まってしまう。だから産後2ヶ月で働きはじめたけど、でも全然進まなくて、そのストレスもすごかったです。

考えてみたら、私は小学生のときからカラーランドセルを選ぶような浮いた子だったの。最近はよくいるけど当時は全然いなくて。中学生になると、月に1回、学校を休んで朝から習い事のおばちゃまたちのクラスに行ってみたりとか、浮いてたのよ、ずっと(笑)。

大人になってからは、むしろ浮いているから仕事が来たり、そんな自分を肯定する仕事をしてきたんだなと思いました。

それが母親になった瞬間に取り上げられて、逆に「母親らしさ」を前の夫に求められたのがつらかった。暮らしかた冒険家くらいはみ出したことをしていても、普通のことを求められるんだ、という重圧がけっこう苦しかったですね。

前の夫だけでなく、両家の親からも、世間からも「子どものためにこうするべき」というものが降り掛かってきて、それに対して私も「期待に応えたい」と思っていたから、さらに葛藤を生んで、産後はもう本当にボロボロでした…。

そういったことが積み重なって、理解しあうための話し合いの時間もエネルギーも情熱もどんどんなくなって、離婚することになりました。

再婚に向けて、自分に合う人を棚卸し

現在の旦那さんと息子さんと、新婚旅行先にて。

ーーそうだったんですね…。その後、いまの旦那さんと再婚することになりますが、どんな出会いだったのでしょう?

私は妹がいてよかったし、なんとなく「もう一人子どもがほしいな」と思っていて、再婚を考えたときに、もう一度子どもを生むならどういう人がいいのかをよく考えました。

私は子どもを生んでも仕事をし続けることは確かで、夫より妻が稼ぐ可能性があるとか、妻が社会的に表に出ることを許容できる人じゃないとダメだな、というのが一番にありました。

過去の恋愛も棚卸ししてみたら、私は仕事と恋人を混ぜがちでした。自分の仕事に役立つスキルを持った人と付き合っていたというか。でも仕事が楽しいときに相手に興冷めする瞬間がいつもあったことを思い出して、「仕事と恋愛は混ぜちゃいけないんだ!」って気づいたんです。

これまでは恋人感覚よりも仕事としての一体感をパートナーに求めてきたけど、それをやめよう、と。そうなると、これまでと全くちがう戦略でパートナーを見つけないといけない。それで、マッチングアプリをはじめました(笑)。

条件を考えていくと、私はフリーランスだから、子どもを生むと産後は仕事ができなくて収入が止まるので、そのあいだ養える人がいいなと思いました。つまり安定した仕事で、ある程度の年収がある人という、とてつもなく現実的な条件が見えてきました。

年齢は、いままでずっと仕事のスキルを重視していたから年上の人と付き合ってきたけど、そもそも年上だと独身者は少ないし、今回はその条件はいらないのと、もとから高低差がある状態のほうがいいのかもなと思って年下かな、と。

それでいて、私がよく一緒にいるアーティストやミュージシャンと遊べる、文化度の高い人。あとは初婚でもどっちでもいい、住んでいる場所も問わない、そんな条件で探しました。

盲目的にならず、現実的に結婚について考える

ーーマッチングアプリを利用したのは意外でした!そこから、どんなふうに進めていったのですか?

マッチングアプリでは、いろいろ試した結果、プロフィール写真をおもいっきりおしゃれな写真のラインナップにして、全然親しみやすくない、声をかけづらい状態にあえてしていました。

そんななかで3人から連絡があって、そのうちの一人がいまの夫です。ほかの二人は「お互い自立していたい」という人たちで、産後はどうやっても自立できない期間があるのに、自立にこだわる人たちだったから合いませんでした。

一方、夫には「ずっと働くつもりだけど、子どもが生まれたときは養われたい」と言ったら、「そうだよね、いいよ」と言われたの。「あ、いいんだ」って安心しましたね。

あと、夫婦の平等性は大事にしたかったので、すごく確かめました。「母親がやるべきことってたくさんあるから、男性にはその分を別のところで担保してくれないとフェアじゃない気がする」といった話をしたら、わりとすんなり許容してくれたのでよかったです。

子どもについても、息子が再婚によって不幸になることは絶対に避けたかったので、子育ての仕方とか話し合ったし、ほかにも「これどう考えている?」と徹底的に話しました。

恋愛の延長で結婚を決めると、ときめきとか盛り上がり感を重視して、現実的なことを忘れがちで、なんならその雰囲気を延命したいとさえ思って、現実的な話をしないまま結婚することもある。けれど今回は子どももいるし、いろいろ現実的なことを話しまくった結果、盲目にならず、相手が自分にちゃんとフィットしているなっていう実感があります。

それでも、結婚後に「おやおや?」と思うことは出てくるけど(笑)、最初にベースをちゃんと話せたから大きなブレはないですね。

新しい家族のかたち

ーーいま、旦那さんと息子さんと3人で暮らしているようですが、二人はどんな関係を築けていますか?

不思議な関係ですね。夫は息子に対して、子ども扱いしないんです。たとえば夫が「お風呂に入ろう」と言って、息子が「やだよ〜」って答えると、「なんでいやなの?」って真顔で聞いたりして。そのまま二人で20分くらい向き合ったまま硬直していたり(笑)。

「まだお風呂入ってないの?!」と聞くと、夫は「お風呂に入りたくないって言うから理由を聞いてた」って言うんだけど、もうちょっと子ども扱いしてもいいかもね、と思うこともあります。その対等感は好きなんだけど。

一方、息子は、小さいときからいろんな人に預けていたせいか、夫のことも「遊んでくれるお兄さんが一人増えた」という関係性からはじまって、自然と仲良くなったと思います。

あるとき、息子に「●●くん(夫)がいること、どう思う?」って聞いてみたら、「●●くんといるときのママはかわいいから、いいと思うよ」って言ったの。ほ〜なるほどね、と(笑)。

息子が3歳のときに離婚したのですが、最後に喧嘩したまま別れたから、息子に「なんでお父さんはママに謝らないんだろう?」と聞かれたことがありました。

3歳でもわかるように「ママはお父さんに謝ってほしいけど、お父さんはママに謝るようなことはしてないと思っているの。たぶんどっちも正解で、どっちも間違いなんだけどね。二人が『わかった』とか『ごめんね』って言えなくなったから、一緒に住めなくなりました」っていう説明をしました。

同じ質問を半年に1回、全部で3回くらい聞かれて、それに答えるごとに彼の語彙力や理解力も上がっているから、4歳になる頃にはなんとなくわかったみたいで、そこからは聞かれなくなりました。

個人問題なのか社会問題なのか

自宅にて、5歳の息子さん。

ーーお子さんがいるなかで、離婚することに抵抗はありませんでしたか?

まず、実父と一緒に暮らすという選択肢をなくしたのは、息子には申し訳ないとは思っています。ただ、あのままの状態でいたら、私も彼も病んでいたと思うし、それはある意味どちらも失うことだな、と思いました。世間的なベストではないけど、私ができるベストな選択はこれだった、という感じです。

私は前の夫とたくさん喧嘩していたので、その環境にいるほうが子どもによくなかったかもしれないし、現時点では何が正解かはわからないですよね。あとは、離婚すると「子どもがかわいそう」って言う人もいるけど、それは子ども本人が決めることであって、まわりがとやかく言うことではないとも思っています。

経済的な理由で離婚できないという話もよく聞きますが、本当に難しいですよね。それは個人の問題というより社会の構造の問題だよね。養育費の制度設計や親権の制度も、夫婦別姓とか、育休を取りにくいとか、結婚や離婚にまつわる問題って、けっこう社会的に、慣例的にも制約があることが多いから難しい。

今の夫と喧嘩をしたときも、原因が相手の個人の問題なのか、それとも社会の問題なのか分類しているようにしています。たとえば「夜に会議が入るから保育園のお迎えにいけない」と言われたら、「それはこの社会における働き方の問題ですね」とか。1対1(私と夫)ではなく、2(夫婦)対社会にして、同じ方向を見たほうが建設的に話せます。

夫婦で話し合うことが大切

菜衣子さん(右)への取材はオンラインにておこないました。
「ぱぱとままになるまえに」代表の西出博美(中央)とライターの古瀬絵里(左)の3人で、3時間にも及ぶ楽しい時間となりました。

ーーまだまだ聞きたいことはたくさんあるのですが…最後に、これから結婚する人やすでに結婚している人へ向けて、アドバイスがあればお願いします!

子どもがいてもいなくても、長い時間を一緒にいるパートナーとして、どうありたいか、どうすると二人は居心地がいいか、話し合えるのが重要だと思います。

長く一緒にいれば、とにかくいろんなことが変化していくことだけは変わらないから、そもそも話し合いと結論のすり合わせができる相手なのかを見極めるのが大事。あぁ、あとは話し合いの前提として観察力があって、相手の状況を把握てきているのも大事だな。

働くときも、雇用条件とか確認するじゃない?結婚って仕事よりも人生を左右するものだと思っているし、会社は60歳までだとしても結婚は長くて80歳くらいまでだとしたら、50年間くらい一緒に過ごすわけでしょ。だから本当に真剣に向き合わないといけない。

大変だし、難しいときもあるけど、納得感を持って楽しく生きていくために、とにかく夫婦で状況をすり合わせることが大切だと思います。それでもダメだったら、離婚すればいいと思いますよ(笑)。

(聞き手・西出博美 文・古瀬絵里 写真提供・伊藤菜衣子)

菜衣子さんへのインタビューを終えて

わたしが「ぱぱとままになるまえに」会いたいと思って会いに行っていたり、イベントでゲストスピーカーに招いていた人たちは、どんな人たちだったのだろう?

これまで、そのことについて言葉にできていなかったのだけれど、自分が母になり感じた「息苦しさ」や、出会った“ママ友たち”の違和感。逆に、「あ、わたしこの人といると『母になれてよかったなぁ』とか『母も楽しい!』って思えてるな」という人との違いを感じる中で、だんだんと言葉になっていった。

わたしが「ぱぱとままになるまえに」会いたかった人たち(=これからは、「ぱぱとままになるまえの人たち」に会わせたい人たち)は、誰かの言葉を話したり、誰かの考え方によって行動していない人たちだ。

親になると、どこからか急に立ち現れる“型”のようなものがある。けれど、その型に違和感を抱き、流されず、止まってきた人たち。型にハマらず、“自分”を保っている人たち。親になっても、“自分”を保つのは、容易ではない、ということは、わたしは親になってみてわかったことだ。

型にハマるほうがラクだったりする。それでも型にハマらず、自己流で歩む人たちの姿に、今のわたしは力をもらっている。

 

きっと、「ぱぱとままになるまえ」のわたしは、親になる前の“自分”を引き継ぎ、今の姿(親)がある人たちの“一致感”のようなものにホッとしていたのかもしれない。

その人たちが、「これまでの自分を大事にしたまま、親になっていいんだよ」っていう言葉を、体現して生きているような感じがしたから。

学生を抜けて、就職したり、結婚したり、社会的な「段階」を経て、どんどん型にハマってつまらなくなっていく人たちにガッカリしていた。

けれど、それでも型にハマらずに興味深い人生を送るおもしろい人たちの姿を見て、「親・大人になったら“こうあらねばならない”」なんてことはないんだ!って自分も思いたかったし、「なるまえのみんな」と、いっしょに思いたかった。

だから、そう思える人たちにみんなを出会わせたくて「ぱぱまま」の活動を始めたんだな、とはじめのころの気持ちが言葉になったような取材だった。

 

 ・  ・  ・  

「ぱぱまま」を始めたばかりのころのわたしは、両親の離婚の影響もあって、「“絶対”離婚はしたくない」と思っていた。わたしの中で「離婚=悪」だったので、自分はそれを回避するために行動していきたいと思っていた。

でも、自分が結婚・妊娠・出産・子育てを経て、“絶対悪いこと”なんてないとわかった。過去の自分が綺麗事を言っているとも感じた(苦笑)。

あんなに「絶対離婚したくない」と思っていた私だったのに、気持ちの盛り上がりの勢いで結婚した。それでも、“今”にちゃんと満足しているし、これしかなかった、と思っている。夫と喧嘩をして、「あぁもう離婚だ!」と思うことがあっても、だ。

「離婚はいいことなんだよ!」と言及するつもりはないし、したくはない。けれど、変に意味をつけすぎないほうがいいな、とは思っている。

わたしは結婚・妊娠・出産・子育てをするうちに、型にハマるどころか、どんどんフラットになってきているな、と自分で思う。一見すると、避けていけるといいとされる、離婚・中絶など。でも、それって本当に避けたほうがいいの?

一つひとつの選択肢は、今のわたしの目の前にとてもフラットに存在している。いい・悪いなんてないんだな、と思う。

 

菜衣子さんのように、型にハマらず、自分で人生の舵を取るために必要な“力”ってなんだろう、と疑問に思いながら話を聞いていたけれど、もしかしたら逆に“力を抜く”ことが必要なのかもしれない。

自分の気持ちや、世の中の流れ、時代の進歩…。いろんな“変換点”が訪れたとき、「自分の信念を曲げてはいけない!」とか、「初心を揺らがせたくない!」とか、しがみつくのではなく、「今、ここ」を大切にして、ふっと力を抜き、「今」の健やかさや気持ちよさ優先で生きる人をこれからも見ていたいし、そんなパパやママたちの姿を「ぱぱままっぷ」では紹介していきたいな、と思う。

きっとその姿は、誰かの力になるから。

 

(文・「ぱぱとままになるまえに」代表・西出博美)

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