ぱぱとままになるまえに

すぐに答えが出ない“面白味”を、味わう。

人と人の間にある“磁力”

取材に行く前、“絶対に土くんから聞き出したい答え”みたいなものは、ハッキリ見えてはいなかった。けど、それでも会ってみたくて、連絡をさせてもらいました。

あーだこーだ言いながら、「ひと」に会い、はなして、揺れて、揺さぶられ、少し、立ち止まって。そこで言葉になったものに、何か希望を感じている。

と、「まえがき」で書いた。まさに、そんな感じだった。

「8ヶ月のころから、8歳のころまで、沈没家族で育った」という経験は土くんにありつつも、それだけが土くんの人生の全てではない。しかも、「沈没家族で育つ」ことは、土くんが選んだわけでもない。

それでもわたしが「土くんに会いたい」と思ったのは、なぜなんだろう…?
答えが出ないまま、取材へ。

土くんに疑問を投げかけ、土くんがそれを受けて話し、またわたしがぶつぶつと言うような、そんな取材だったのだけれど(苦笑)土くんが、山くんと穂子さんのことを、「磁石みたい」と言ったときがあって。

それを聞きながら、わたしの中にも磁石、あるかもしれないな、と思った。

わたしは、「家族、子ども、妊婦さん、人の育ち」周辺のことに興味があって、その周辺に“磁力”が存在しているような感じがある。そのまま、引き寄せる人や関心事に導かれて、ここまできたような気がする。

憧れとか、「会いたい」と直感的に感じた人に、素直にそのまま会いに行ってみるとか、素直にその磁力に惹きつけられてみるって大事かもしれない。

・ ・ ・ ・ ・

ハッキリ、スッキリしなかった取材で、終わったあと、「ちゃんとできなかったかも…」と、自信を失くしかけたけれど(苦笑)取材帰り、ほろ酔いで夜風に当たりながら、ことばになったことがあった。

何をそんなに答えを急いでいるの?

なんか、そんなことを土くんの取材を通して言われたような気がしたのです。(土くんは言っていないのですが。笑)

土くんが取材場所に到着したとき、外は雨が降りはじめていて、
「雨…大丈夫でしたか…?」と聞くと、
『島の人間は、傘、ささないんですよ』と言って、土くんは笑った。

その後、雨はまさかまさかの雪に変わり…。

取材が終わってから写真撮影をしようと思っていたので、わたしは取材をしながら、最初に写真撮っておけばよかった…と、少し残念な気持ちに包まれる。

取材が終わり、雪の中、一応写真撮影をしようと思っていた場所へ歩く中で、傘を持っていない土くんは、わたしの折りたたみ傘に入るのを遠慮しつつ、『昨日坊主にしたのを、ちょっと後悔しています。』と言って、また、笑っていた。

うちの子どもは、今、4歳。
彼と過ごす毎日は楽しい。でも、大変で、たまにしんどくなる。

何がそんなにわたしをしんどくさせてるんだろう…。

ずっとわからなかったけれど、土くんに会って、話して、気がついたことがあった。

前のわたしは、後先考えないで気持ちのままに行動していた。
よく命が今ここにあるな…って思うくらいに(笑)

富士山まで無一文徒歩の旅をしたり、ヒッチハイクで日本一周をしたり…。他にもがむしゃらに、考えているようで何にも考えていなかった、あの時。それこそ、磁力の赴くままに。

でも、子どもを産んで、未熟な子どもを目の前にすると、良くも悪くも「先が見えちゃう」ことが増えた。だから、わかっちゃうから、見当がつくから、失敗しないように失敗しないように…。守って、事前に備えて……。

“絶対”なんてないって思っていたはずなのに、気がつくと、いつの間にか、“絶対大丈夫”な行動ばかりしてきていたんだなぁ。

「どこに行きたいの?」とか、夢とか、目指すようなところ、こうしたい、ああしたい…というのがなくなって、「そうならないように、ああならないために」と、予防線ばかり張って時間を過ごしていることが増えていた。

これが、しんどさの原因かも…?

全くどうなるかなんて、見えない“将来”。それを案じ過ぎて、“今”を通過するときにはもう、クタクタに疲れちゃうくらいなら、雨に打たれても、雪に吹かれても、笑えるほうがよっぽどいい。
シンプルに笑っていられる今にだけ焦点を当てればいいのだ、と思えた。

人生は長いのだから、“答え合わせ”を急がなくてもいいよな。
すぐに答えが出ない面白味、もっと味わっていこう、わたし。(私たち。)

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